HOME留学体験記法鼓文理學院 2022年~2023年

法鼓文理學院 2022年~2023年

2022年9月から一年間、台湾の法鼓文理學院(Dharma Drum Institute of Liberal Arts. 以下「DILA」という)に留学し、仏教学研究を志す学生としてとても良い刺激を受けました。

DILAは台湾の四大仏教教団の一つである法鼓山に併設されている仏教系大学で、学生は毎日朝暮の坐禅・お勤めに自由に参加でき、食事は出家者と同じように一日三食の精進料理をいただきます。また水陸法会などの大規模な法会を始めとした様々な活動に参加する機会が年間を通してあり、法鼓山の宗教活動を身近に感じながら勉学に励むことができます。

私は第1学期に専門科目・語学科目を含め、計7科目を履修しました。授業は基本的にすべて中国語で行われ、留学生活を始めた頃であればあるほど、中国語能力の不足していた私にとって、話の内容を聞き取れないことは大きな問題でした。まだ配布資料などがある場合は、漢字の文章が理解の一助となったので助かりました。

「心靈環保講座」はDILAを代表する特色のある授業で、学部・大学院に所属する幅広い年齢層・国籍・僧俗などのバックグラウンドを持った学生たちが一堂に会し、DILAの教授陣による交替形式での講義を中心として行われます。授業内では学生同士のグループディスカッションや、グループによる研究発表なども行われて、とても活気がありました。本授業の一環で、「経行」という歩くメディテーションを行いながら法鼓山内を参拝して回ったフィールドワークも印象に残っています。

「天台学與華厳思想」の授業では、曾堯民副教授から天台学と華厳学を学びました。また休暇日には曾先生の母校である台湾大学の図書館を案内して下さり、資料の探し方などを教わり、DILAの図書館にはなかった資料も複写できました。

「日本仏教著作選読」の授業は、日本語の研究論文を分担して中国語に翻訳する演習科目で、日本語に精通している釋見弘副教授の指導を受けながら、受講生たちが懸命に翻訳に取り組んでいる様子を見て、正確に翻訳することの大変さと、言語学の面白さを感じました。

2 月に参加した「禅七」という一週間の坐禅体験プログラムでは、毎日何時間も行う坐禅を中心としながら、法鼓山の創始者である聖厳法師の説法映像を見て黙照禅について学びました。外部との連絡を遮断し、坐禅に専念した一週間は、身体的に辛くなる場面もありましたが、貴重な経験となりました。

長期休暇期間は台湾人のクラスメートが法鼓山以外の台湾四大仏教教団(仏光山・慈済・中台禅寺)の本山に連れて行って下さり、台湾仏教の雰囲気を肌で感じることができました。

第2 学期は博論の執筆に重点を置くため、多くの授業を履修できませんでしたが、豊富な蔵書を誇り研究環境の整っているDILA の図書館に通い、集中して研究活動が行えました。

漢訳仏典を用いる研究で、日本のSAT 大正新脩大蔵経テキストデータベースと並び広く利用されているCBETA テキストデータベースは、その運営をDILA 内の専門チームが主導していますが、その中心である洪振洲教授からCBETA について個人指導を受ける貴重な機会を頂きました。洪教授からは、CBETA とSAT とは代表者同士で話し合って仕事の範囲を分けていること(例えば、『大正新脩大蔵経』56 巻~84 巻の日本撰述部はCBETA に収録されていないなど)、CBETA ではインターネットの特性を活かして、句読点の間違いなどについて公開後もフィードバックを募集していること(実際に中国大陸からフィードバックがあったが、日本からのフィードバックは少ないので、日本の学者からも是非フィードバックが欲しいとのこと)など、CBETAに纏わる興味深い話を伺うことができました。

新北市金山区の海辺から近い山の中腹に位置し、自然に囲まれているDILA の居住環境はとても良く、雨の日が多い時期以外は快適でした。DILA では世界各地から来ている留学生・僧俗との交流もあって、良い刺激を受けながら日々を過ごせました。

仏教信仰と学問とが社会に開かれている法鼓山には清々しい雰囲気があり、私もDILAでの留学生活を通して新たな視点を得て、自身の視野を広げることができました。

これもひとえに母校の国際仏教学大学院大学とDILA の先生方、事務局の方々、クラスメートたちからの手厚い支援を受けて成し得たことであり、皆様から頂いた温かいご支援に、この場をお借りして心から感謝申し上げます。

2024年8月 浅野 学