国際仏教学大学院大学
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    研究概要  
研 究 概 要
 
 日本に現存する奈良写経や平安写経は、10世紀から13世紀にかけて中国・朝鮮で刊行された所謂刊本一切経(大蔵経)や敦煌写経等と比較して補完的存在として扱われてきたが、近年の研究成果に依れば唐代の忠実な複写本であることが分かってきた。加えて刊本一切経は唐から宋にかけて改変されたものの、文字の異同も多々見られ本格的な校訂本の作成が求められるようになってきた。
平安写経や鎌倉写経になると誤写が顕在化してくるが、それでも唐代仏教の基本的聖典の様相が反映されている。これは敦煌の仏教文献群と優に比肩できる資料となるのである。敦煌の一切経としての現存率は必ずしも高くなく偏在しているのが現状である。一方、日本の奈良写経は一千数百巻あり、奈良写経の転写本と想定される平安写経は一万巻をはるかに凌駕しているのである。もとより古写経は海外へ移ったものもあり、集大成するのは容易ではないが、海外の研究機関や博物館等の協力を得て世界で唯一の日本古写経のデジタル画像の集積を図る計画である。
 また、デジタル画像の効果的な閲覧・検索システムの開発は本研究プロジェクトに限らず将来の幅広い展開が考えられるものである。

○ 研究の背景となる研究領域の進展状況等
 海外の研究は皆無に近く、国内では正倉院事務所が正倉院聖語蔵写経の調査を進め、一部丸善からCD-ROM版が出版されている。平安写経では、京都国立博物館が主体となって中尊寺一切経の調査およびマイクロ化が進められている。七寺一切経と金剛寺一切経は落合俊典が中心となって一部調査・撮影が行われている。西方寺一切経、興聖寺一切経、名取神宮寺一切経、妙蓮寺松尾社一切経などは調査が完了し、目録が上梓されている。

○ 研究内容
漢文大蔵経のテキストは、従来高麗版や宋版などの刊本一切経を中心に形成されてきたが、敦煌文献資料の出現によって細部では相当文字の異同が多いことが分かってきた。しかし、敦煌写経だけでは『貞元入蔵録』の過半に満たず、一切経を復元することが困難であることも分かってきた。
一方、隋唐仏教からの忠実な写しである現存奈良写経は『貞元録』の5分の1と残存率も低く、十分な補完文献とはなり得なかった。ところが、宋版の転写本と想定されていた平安写経が実はその大半が奈良写経の系統につながるものと判明し、それらを集大成する意義が一気に高まった。
奈良平安古写経の集大成とその公開によって新たな漢文仏教経典のテキスト作成が軌道に乗ると確信される。

○ これまでの成果と達成目標
1年次(平成17年度)には正倉院聖語蔵、金剛寺、七寺、興聖寺、西方寺、名取新宮寺、妙蓮寺松尾社の一切経を対象とした『日本現存七種一切経対照目録(暫定版)』を刊行した。その後、西方寺一切経、及び敦煌本との対照を加え、『日本現存八種一切経対照目録』を上梓した。
今後の目標として、3年次(平成19年度)までに七寺一切経1,400巻、その他の一切経600巻を調査・デジタル化する。5年次には、奈良平安古写経によって『貞元入蔵録』(800年成立)に基づく書目をすべて集大成したデジタル版・復元唐仏教一切経を作成する。

○ 共同研究の体制
諸機関の中でも特に奈良写経や平安写経などに関する情報を豊富に有している京都国立博物館、京都大学人文科学研究所、大阪大谷大学文学部とは緊密な研究体制を築き、調査・研究を進めてゆく。またデジタル情報工学に関する知識を古典漢籍に応用していく分野や、情報公開ならびに教育への展開については、和歌山大学システム工学部、大谷女子大学教育福祉学部、京都大学人文科学研究所付属漢字情報センターなどの協力を仰ぐ。

○ 期待される研究成果
 本プロジェクトの進展によって隋唐仏教が基本典籍とした仏教経典群を復元することが可能となる。これは現存の敦煌写経をはるかに凌駕するものであり、かつまた日本の古代・中世の仏教文化の精華を世界に知らしめることにつながる。

○ 研究成果の公表計画
古写経ニュースレターは毎年発行し、作成した目録は公刊し、そのデータベースはウエブ上で公開する。奈良写経現存目録は5年次(平成21年度)に公刊する。デジタル版・復元唐仏教一切経は大学図書館に設置し資料請求に応じる。


 (平成19年3月現在)
 
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