国際仏教学大学院大学
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発表要旨

衣川賢次(花園大学 教授)


「日本と中国の古写経による仏典校訂の試み
―『法句譬喩経』を例として―」

 『法句譬喩経』の日本語訳注『真理の偈と物語』(大蔵出版、2001)が出版され、その書評を書くとき、わたしはまず敦煌写本(書道博物館本、スタイン本、ペリオ本、北京本)、ついで日本古写経(聖語蔵本、七寺本、金剛寺本)を、日本語訳の底本となった高麗蔵本(および金蔵本)と対照させながら読んだ。それはかつての藤枝晃氏の「敦煌写経によって大正蔵を校訂し、新たな定本を作成しよう」という提案に応じたのであり、また最近の落合俊典氏の「日本の奈良平安一切経は、古い形態をよく留める点において高い価値を有する」という認識を受け、この経典について検証を試みたのである。その結果、写本系と刊本系のあいだには系統的な差異が存すること、写本系の古い素朴または晦渋な語句や表現が、刊本では通達、洗練されたものに改められ、文字の字体も当世通行のそれに書き改める傾向にあることを確認した。一般に、古籍は刊刻に際して校訂がおこなわれ、新しい定本として提示されるのであるが、それは仏典においても例外ではない。漢語史の資料として漢訳仏典をあつかうとき、厳密な研究をおこなうには、漢訳された時代に近い写本(敦煌写経、日本古写経)に拠るべきであり、刊本には宋代(以後)の言語表現規範が部分的にせよ反映していることの認識が必要である。

  
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