宇都宮 啓吾 (大阪大谷大学教授)
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『大乗起信論』の古点本について
『大乗起信論』は、大乗仏教思想を解明した論書の代表的なものの一つとされる重要な文献として、日本においてもその書写が8世紀には既に行なわれていたことが確認されるなど、その古写本も多く現存している。そのため、従来より仏教学の立場から研究が大いに進められている。
その一方で、漢文訓読の歴史的変遷やその言語の実態を対象とする訓点語学の分野においては、『大乗起信論』の古点本(中世以前の訓点の施された資料)を取り上げて、その訓読の実態を検討することは従来少なかったように思われる。
そこで、本発表では、中世以前における『大乗起信論』の訓読の実態を窺わせる古点本の中から幾つかを取り上げて、その紹介を行なう。その際、新出の古点本の紹介に併せて、『大乗起信論』の訓読における時代的変遷や宗派における訓読上の相違についても言及したい。
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