国際仏教学大学院大学
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    発表要旨


木村 清孝 (国際仏教学大学院大学学長・教授)

金剛寺本『大乗起信論』の思想的特徴について

 『大乗起信論』は如来蔵系の論書として、東アジアの仏教世界において極めて重要なものである。この論書は、馬鳴(アシュヴァゴーシャ)なる人物が著し、六世紀に中国に来た訳経僧の真諦(パラマールタ)がまず訳出し、後に八十巻本『華厳経』等の翻訳者実叉難陀(シクシャーナンダ)が再訳したと伝えられている。

 ここに取り上げる金剛寺一切経本『大乗起信論』(真諦訳本とされるものの写本)は、天平勝宝六年(七五四)の奥書をもち、本文に平安時代前期と思われる訓点が付される東寺観智院蔵本とともに、きわめて貴重な写本で、平安時代後期(十二世紀)頃の書写と考えられている。また、その加点(移点)の時期も、ほぼ同時代と推測される。首題には「大乗起信論一巻 馬鳴菩薩造」、奥書には「幸一丸七歳/貴使懐書辱投熟手開封欲覧/請大乗起信論」と記されている。
 
 とくに本写本は、思想的な面に関していえば、独特の訓みがなされていることが注目される。われわれはそこから、中古-中世の日本において『大乗起信論』がどういう特徴的な理解のされ方をしていたのかを窺うことが出来るのである。
  
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