院政期書写の『五百問事経』について-金剛寺本の意義
『仏説目連問戒律中五百軽重事』(『仏説目連問戒律中五百軽重事経』、『五百問事経』とも。以下『五百問事経』と略記する)は、比丘が戒律を犯したときの罪の軽重について問答形で記した文献である。東晋代失訳とされているが、その内容や構成はインド成立の戒律文献とするには疑問があり、原形となるものは五世紀頃中国で成立したと考えられている。『五百問事経』は中国においては唐代以降、四分律宗において重要視され、日本でもその影響を受けて律関係の文献に引用が見られるものである。
大阪・河内長野市にある金剛寺には、ヲコト点が付された院政期書写と思われる断簡が現存し、当時『五百問事経』がどのように読まれていたかをうかがい知ることができる。また、金剛寺の一切経本『五百問事経』は、大正蔵所収の『五百問事経』諸版本とはやや構成が異なる。本発表ではこれら金剛寺所蔵の『五百問事経』古写本について紹介するとともに、現存諸本との異同等の問題についても検討したい。