池平 紀子(大阪市立大学非常勤講師)
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中国北魏撰述の『提謂経』と仏・道の神々
『提謂経』は北魏世祖太武帝による廃仏(446-452年)の後、沙門統曇曜の直轄下にあった曇靖が高宗文成帝(452-465年在位)の頃に撰述したとされる仏教経典であり、仏教復興のために創作されたいわゆる「公認の偽経」であった。
その中心テーマは在家の信者が不殺生・不偸盗・不邪淫・不飲酒・不妄語の五戒を受持することを諭す点にあるが、それを説明する際には五行思想や道教の思想など多くの中国固有思想が援用され、関連づけられて語られる。これらの特徴の中には、同時代に作成された他の偽経や道教経典とも相互に交渉を持つものがあり、更には後世の中国仏教思想・道教思想にも一定の影響を与えているとみられるものもあって、中世以降の中国思想史上においても無視し得ない重要な思想を提出していると考えられる。
本発表では、『提謂経』に見られるそのような種々の要素の中から、特に五戒を受持する信者の身を擁護してくれるという五戒神について取り上げ、その特徴および他の仏教文献・道教文献に見られる戒神との関わりについて論じたい。
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