赤塚祐道(国際仏教学大学院大学博士課程・学術フロンティア研究補助員)
日本古写経本系の『陀羅尼雑集』に見られる特色
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中国梁代の撰述と考えられる『陀羅尼雑集』(T.21,1336)はその名が示すように、それまで使われてきた陀羅尼を蒐集し一つにまとめたものであり、初期密教の変遷を考える上でも重要な一書であるが、その内容が雑密経典類であるためか日本密教においては注目されることなく、一切経の中で伝えられ今日に至っている。
しかし、『陀羅尼雑集』は日本古写経本系と高麗版等の版本系の二種類に分類できるということが落合俊典氏によって指摘されているように、巻数の順次が大きく異なる古写経の存在が明らかにされている。
日本古写経本系と版本系とを比較した場合、大きな相違点は三点ある。一には版本系の巻一から巻三に収録される『七仏八菩薩神呪陀羅尼経』が、日本古写経本系では巻八から巻十に配当されるという点。二には版本系の巻二と巻三が『七仏八菩薩神呪陀羅尼経』と同ように引用されるのに対し、日本古写経系本では陀羅尼の順序が大きく異なる点。三には『陀羅尼雑集』を日本古写経本系では『雑呪集』と名付けている点である。
このように『陀羅尼雑集』は日本古写経本系と版本系とに大別できるが、今回、金剛寺本・西方寺本の日本古写経本系と高麗版等に代表される版本系とを比較検討することで、日本古写経本系の『陀羅尼雑集』の特色を再確認する。さらにこのような違いはどのような過程で起こったのか、その疑問に迫りたい。
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