平成20年度第2回公開研究会 発表要旨
林寺 正俊
(国際仏教学大学院大学学術フロンティア研究員)
版本と日本古写経から見た『五苦章句経』編集の問題
『五苦章句経』とは、天・人・畜生・餓鬼・地獄という五道の苦の有り様などを説く、漢訳のみで存在する経典である。
従来知られている版本『五苦章句経』と今回新たに見出された日本古写経中の『五苦章句経』との間には二つの相違点がある。第一点は、日本古写経には見られない一段落が版本に存在していることである。その段落は内容的に『不思議光菩薩所説経』という別の経典の一部に対応しているが、訳文がそのまま借用されているわけではない。第二点は、版本に存在しない二つの偈頌が日本古写経の末尾に付加されていることである。それらの偈は『禅要経』と『法句経』に含まれる偈をそのまま借用したものである。
また、本経には、版本と日本古写経との間で訳文の共通している、一見して問題のなさそうな部分にも実は奇妙な点が存している。それは、一方では『天使経』という原始仏典中の教説が説かれながらも、他方では『放光般若経』という大乗仏典を前提とした教説が含まれているという点である。
以上の諸点から推すと、本経は版本も日本古写経も、或る一つの完結したインド語原典を忠実に訳したものではなく、先行する幾つかの経典の一部(インド語原典および漢訳)を寄せ集め、適宜それを編集したうえで作り上げた、一種のパッチワーク的な作品である可能性が高い。版本と古写経が相違しているのは、編集過程の異なる段階の形態をそれぞれ留めているためかもしれない。
本発表では、『五苦章句経』の両バージョンを検討することによって、以上のような「編集」の問題について考察する。
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