廣坂直子(京都外国語大学非常勤講師)
「国際仏教学大学院大学本『摩訶止観 巻第一』の訓点について」
国際仏教学大学院大学本『摩訶止観 巻第一』は、以前、築島裕氏によって巻三・五・九を併せて調査がなされ、巻第三について築島裕『平安時代訓點本論考ヲコト點圖・假名字體表』汲古書院(1986)に収載、平安中期書写・長保(999-1004年)頃加点とされており(p.704‐705)、『同 研究篇』(1996)では「恐らく天台宗延暦寺関係の加点であらうと考へられる」(p.507)とされている酒井宇吉氏・石山寺旧蔵のものと同一である。
この度、国際仏教学大学院大学が本資料を入手され、実見調査及び画像提供等のご協力をいただき、大阪大学大学院金水敏教授の大学院演習において全文を対象とした本格的な調査が可能となった。本発表では、演習での成果も踏まえ、以下のような報告を行う。
本資料には四種もの訓点(朱・白・緑・墨)が見られ、内三種(朱・白・緑)はヲコト点・仮名点・声点等、一種(墨)は主に仮名点である。本発表では、本文全体にわたって施された第一次点であると見られる朱点を中心にその系譜を探る。朱のヲコト点は、いわゆる第五群点であり、これまでの調査によってその星点は、池上阿闍梨点A類・俗家点と近い配列を持つが、壺内部にも星点をもつこと、多種の線点をもつことなど異なる部分もあることが判明してきている。本発表では、ヲコト点の一類型(築島氏によって「五群A点」とされているもの他)との関連性を指摘する。また、こちらも本文全体に施されてはいるものの、性質上、判読が困難になりつつある白点について、異本と校合する・講義を行う・別本を作成する等の際に、朱の点検・訂正・別訓書き込み等に使用された可能性があることなどを述べる予定である。
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