恋田 知子(国際仏教学大学院大学学術フロンティア研究員)
「新出金剛寺蔵『十種供養式』をめぐって-法華経の唱導と儀礼-」
十種供養とは、法華経法師品に説かれる十種(華・香・瓔珞・抹香・塗香・焼香・幡蓋・衣服・伎楽・合掌)をもって諸仏に供養すること、あるいはその法要をいう。この儀礼は、天長年間(824-33)に、比叡山横川の円仁が法華経書写とともにおこなった如法経十種供養を嚆矢とし、天台の法華経信仰の拡大とともに、平安末期から鎌倉期にかけて、洛中の貴族社会において盛んに行われた。とりわけ文治4(1188)年の後白河法皇による如法経会は盛大なものであり、知恩院蔵『法然上人絵伝』(四十八巻伝)巻九にも描かれ、後の如法経会の規範となった。
このたび、河内長野市の金剛寺にて、鎌倉時代の写しと思われる十種供養の式文が新たに見いだされた。そこには、文治4年の如法経会をはじめ、当時の十種供養でしばしば導師を勤めた安居院流唱導の祖澄憲(1126-1203)の名が記されていたのである。本式文については、すでに勝林院蔵魚山叢書のうちに確認されていたものの、天保11(1840)年の写しであることからか、従来ほとんど顧みられることがなかった。
そこで本発表では、金剛寺蔵『十種供養式』を紹介しながら、その特徴を指摘するとともに、中世の法華経の唱導や儀礼における本書の意義について考察したい。
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