ジャン=ノエル・ロベール
(フランス高等研究院教授/国際仏教学大学院大学客員教授)
「『正法華経』「信楽品」から見た竺法護の翻訳の方法」
竺法護の翻訳した『正法華経』を一貫した文章として読む試みは極めて少ない。最近の研究によって、竺法護の使った語彙とその梵語の本源との関係に新たな光が当てられ、『正法華経』の翻訳の性格をかねる文章としての全体の働きに注意を向けねばならないだろう。それを評価付けるためには、二つの点を優先にしなければならない。一つはこの文章がどこまで翻訳としての機能を果たしているかということであり、もう一つは独立した文章としての内的進行、即ちナレーションの動きは成り立っているかどうかという問題である。その両面を明瞭に浮き彫りにする例として、鳩摩羅什訳『妙法蓮華経』「信解品」の中の窮子の比喩に当たる竺法護訳『正法華経』「信楽品」の文を選び、それを入念に調べることによって、竺法護がどのようにして訳語の落し穴にたびたび陥りながらも、窮子の比喩に関する先天的な知識によりつつ、ナレーションの趣を保つのに成功したかという事実を明らかにしたいと思う。
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