斉藤 達也(国際仏教学大学院大学附属図書館職員)
「金剛寺本『続高僧伝』の考察
-未収伝記の問題と巻四玄奘伝を中心に-」
道宣撰『続高僧伝』 (大正蔵等、三十巻)は、南北朝・隋唐時代の中国等で活躍した仏教僧達の伝記である。初稿成立(貞観十九年)の後も、著者自身により補訂され、著者没後も改変を受けた。そのため京都の興聖寺蔵本のように版本系より古い形態を保つ異本の存在も知られている。
今回、大阪府河内長野市の金剛寺一切経に含まれる『続高僧伝』(三十巻、巻十・二十一欠)を調査したところ、興聖寺本とも版本系とも異なる特徴を含む異本であることがわかった。本発表では、金剛寺本『続高僧伝』に関する基本的情報を提供し、本書未収の伝記の問題や巻四玄奘伝に焦点を当て、高麗蔵本・興聖寺本等と比較しながら本書の特徴を考察する。
現存巻全体の伝目を他本と比較すると、金剛寺本は興聖寺本・版本系より立伝数が少なく、この二者にない独自の伝目も見られない。また巻四玄奘伝は高麗蔵本など版本系より短く、大きな違いが見られる一方、興聖寺本とは文章全体の構成が似ており、これと異なる独自の記述も存在しない。しかし金剛寺本には、興聖寺本・版本系に見られる年号や玄奘の年齢の記述の内、欠けているところがある。その数や箇所、伝記文献での重要性を考えると、これらは単なる書き落としや省略ではなく、金剛寺本の祖本に元来書かれていなかったと思われる。
これらの特徴から判断すると、金剛寺本『続高僧伝』は、版本系のみならず興聖寺本より古い形態をとどめている可能性が高い。『続高僧伝』の編集過程や玄奘の各種伝記の諸問題を再検討する上で金剛寺本は重要な価値を持つと思われる。
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