平成25年度 第2回公開研究会
日時
2013年11月9日(土)午後3時~午後4時半
会場
発表者
赤塚 祐道(日本古写経研究所 特任研究員)
密教経軌と請来目録との関係-金剛寺聖教を中心に―
【発表要旨】
空海(774-835)の『請来目録』は密教法具をはじめ曼荼羅や尊像など密教を体系的に日本に伝えたことを記すものである。この『請来録』成立の背景には『貞元録』巻第十五があったことを確認することができる。すなわち空海が唐に渡った当時、善無畏(637-735)、一行(683-727)、不空(705-774)らによって密教経典の翻訳が盛んに進められていた。また長安西明寺の円照(生没年不明)は相次ぐ密教経典の翻訳事業に対応するため貞元16年(800)に『貞元録』30巻を編纂し、密教や三階教を新入し一切経目録を完成させている。その4年後の延暦23年(804)に空海は入唐し密教を受法し、『貞元録』に収める密教経典を日本に伝えることになったのである。
後にこれらの密教経典は「請来経」として位置づけられるようになる。とくに真言の寺院においてはこれらの経典を整えてきた形跡が残っている。天野山金剛寺(大阪府河内長野市)にも一定の規則性をもって書写されたであろう経典群が存在する。これまでこれらの経典が請来経であるとの推測のもと調査を進めていたが、すでに金剛寺の学侶によって請来経としてこれらの経典が分類されていることがわかった。
本発表では金剛寺に所蔵される密教経軌がどのような意図で蒐集されたものであるのかについて、金剛寺に残る数種の目録と比較することによりこれらの経典群が『請来目録』と深く関わることを明らかにする。
三好 俊徳(名古屋大学大学院文学研究科 研究員)
真福寺大須文庫所蔵『阿娑縛抄』古写本について
【発表要旨】
『阿娑縛抄』は、鎌倉中期に著された天台密教の事相・教相を集成した書物である。図像を多く収めていることでも知られており、二百巻を越す構成になっている。院政期以降、密教諸法流が形成され、それぞれに特有の口伝を継承するようになるなか、真言宗では『覚禅鈔』など諸流の口伝を集成した大部な書物が作られるが、天台宗ではそのような活動は稀であり、『阿娑縛抄』の成立は注目すべき出来事である。しかし、『阿娑縛抄』についての研究は少なく、作者や成立時期など基本的事項については検討が進められてきたが、総合的研究は今後の課題となっている。このような状況は、主に基礎となる本文研究の遅れに起因すると考えられる。『大正新修大蔵経』や『大日本仏教全書』に収録されているが、それは書写した時代も場所も異なる諸本の取り合わせであり、また翻刻の誤りも見られる。中世に遡る古写本も複数存在するが、全巻を有するまとまった本はない。そのため、諸伝本の特徴の検討をもとにした、信頼のおける本文が俟たれているのが現状である。
そのようななか、名古屋市真福寺大須文庫より鎌倉時代の古写本が三点発見された。「反音鈔」と題される長母寺経由で伝来している一巻は、土屋有里子氏により『阿娑縛抄』の一部であることが指摘されていたが、この度の調査でその正しさを確認することができた。奥書には嘉元元年(1303)に書写した「三河実相寺方丈御本第二伝也」と記されている。実相寺は、成立直後より『阿娑縛抄』を書写していた爾然が住持した禅宗寺院であり、その「第二伝」であることから素性の良い古写本と言えよう。また、更に奥書を持たない『反音鈔』一巻と文永九年(1272)書写の『字記正決』上下二帖を発見した。本発表では、これら『阿娑縛抄』古写本を紹介しつつ本文の検討を行う。さらに、これらがいずれも『阿娑縛抄』のなかでも悉曇学についての巻であることに注目しながら、大須文庫における位置付けについても考察したい。
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