平成25年度 第1回公開研究会
日時
2013年5月18日(土)午後3時~午後5時半
会場
発表者
室屋 安孝(ライプツィヒ大学 研究員)
金剛寺本『方便心論』について
【発表要旨】
漢訳『方便心論』(大正蔵目録1632番)はクシャーナ朝からグプタ朝前半にかけて形成されたインド仏教の初期の論証学・論理学を体系的に伝えており、インド論理学の生成と発展を再構成する上で資料価値が高いとされてきた。インド側の原典が散逸しているので解読には一定の困難がともなうものの、1920年代の宇井伯壽(1925年)、ジュゼッペ・トゥッチ(1929年)両博士による原典研究以来、梶山雄一博士(1984年と1991年)、桂紹隆博士(1986年)、全文の訳注と解題をおこなった石飛道子氏(2006年)などによる本格的な研究があり、また進行中の翻訳プロジェクトも知られている。北宋系の刊本では作者不詳とされるが、南宋・思渓版系の刊本では龍樹に帰せられることから作者問題は現在でも議論の的となっている。他に、重訳や翻訳年代、帰属部派の問題など文献の基礎的側面についても論じるべき点は若干残されている。例えば南宋系の諸版では経序の訳場列位において翻訳年代は「建興年」とされ、それを経録によって「延興年」と訂正することが通例であった。しかし金剛寺本のみは正しく「延興年」としているので刊本系と一線を画している。発表者がこれまで行った金剛寺本と諸版本との対校によれば、同本は金蔵広勝寺本に最も近いと見なすことができる。両本は少なくとも今後の研究では本文批判に必ず考慮されるべきであろう。本発表は『方便心論』の伝える論証学の全体や思想史的な分析を行うものではなく、本文批判の点から金剛寺本に焦点をあて、その対校結果について報告することを目的としている。またいくつかの例によって異文を論じながら金剛寺本と諸版本との系統関係を分析し、金剛寺本が本文の確定にいかに重要な役割を果たすのかについて論じたい。
山野 千恵子(日本古写経研究所 研究員)
テキスト校訂の理論: 仏教テキスト
【発表要旨】
仏教テキストには主に、サンスクリット、漢語、チベット語文献などがあり、これらのテキストを校訂するには、それぞれの言語に特有の法則を理解する必要がある。また同時に、異なった伝統の中で確立されてきた校訂の方法論の相違も理解しておかなければならない。例えば、サンスクリット文献はヨーロッパの文献学、漢語文献は中国の校勘学といった、異なった研究の伝統に属しており、さらに、書写者・校訂者が属する文化の相違、例えば、日本には、ある種のテキストに対する物神主義があり、テキストに手を入れることを嫌う傾向があることなども、校訂テキストの相違となって現れる。ここでは、サンスクリット文献と漢語文献の校訂方法についての概要を、両者間の相違に焦点をあてながら解説する。あわせて、現代、古文書のデジタル・アーカイブの公開やE-text化が進む中で、テキスト校訂を行うことの意義を考えてみたい。
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