海印寺白紙墨書写本に関する基礎的考察
平成26年度国際シンポジウム発表要旨
崔 鈆植(東国大学校史学科 副教授)
韓国海印寺の法宝殿には13世紀中頃に作られた高麗大蔵経板が所蔵されている。ところで2005年、法宝殿の毘蘆遮那仏像を改金するために仏像内部の腹蔵遺物を整理する過程で白紙に墨書で書かれた筆写巻子本1軸が発見された。
それは全部で9枚の紙に477行からなっており、同一人の筆跡による草書で書かれている。その内容は二種の別個の文献からの抄録であることが認められる。前半(1行ー170行)は冒頭が欠けているため書名は不明であるが、内容からして『瑜伽論』に対する註釈文献の抄録と考えられる。一方、後半(171行以下)は行真撰『小阿弥陀経疏』の抄録である。このうち、行真撰『小阿弥陀経疏』は基撰であると知られている『阿弥陀経疏』と同一文献であることが確認された。これに関してはすでに2010年、李妍淑氏によって検討された。
本発表ではこの白紙墨書写本を翻刻して紹介しながら、収録されている二つの文献の性格について考察したいと思う。特に未だ解明されていない前半の文献の内容と性格については、諸関連文献と比較することによって具体的に考察する。また、後半の文献については既存研究を踏まえて抄録の様相や特徴などを考察する。さらに、この写本が筆写された年代や背景などに関して考察したいと思う。